UWB(超広帯域無線)の特徴と標準規格を紹介します。
UWBを使った製品開発を検討している方のために実用的な観点で要点をまとめました。
目次
UWBとは?
シンプルな説明
おおまかなイメージは「UWB=高精度な測位・測距ができるBLE (Bluetooth Low Energy)」です。
UWBとBluetoothはまったく違う通信方式ですが、得意な用途は似ています。
実用上のイメージは「UWBはBLEの親戚筋」です。(※技術的には違います)
Wikipedia的な説明
UWBとはUltra Wide Bandの略称です。
「超広帯域の無線通信」という意味です。
その名の通り、信号の専有帯域が広い通信方式です。
BluetoothやWiFiが狭帯域通信に分類される点を比較した命名だと思われます。
UWBの主な特徴は以下の3点です。
- 低消費電力
- cm級の高精度な測位・測距
- セキュリティ
採用例
UWBの身近な採用例がiPhoneです。
2019年発売の「iPhone11」以降にUWBが搭載されています。
2020年発売の「Apple Watch Series 6」もUWB対応です。
UWB方式の紛失防止タグ「AirTags」も発売が噂されています。
iPhoneの場合、UWBで「AirDrop」機能が使いやすくアップデートされました。
今後はスマホ決済やデジタルキーへの応用が噂されています。
なぜUWBが注目されるのか?
近年、IoT業界ではUWBの注目度がぐんぐんと高まっています。
UWBに注目が集まる最大の理由はスマートフォンのUWB対応です。
iPhoneに続き、SamsungのGalaxyもUWBを搭載し始めました。
今後、スマートフォンの5G対応に乗じてUWBも急速に普及するといわれています。
スマホ決済、スマート家電、ドローンの自律飛行など、従来技術(WiFi/Bluetooth/NFC/GPS等)のソリューションは、UWBに置き換わるかもしれません。
UWBはゲームチェンジャーになるポテンシャルがあります。
特徴
BluetoothとUWBの比較
BluetoothとUWBは実現できる機能が似ています。
どちらも低消費電力な通信方式です。
BluetoothとUWBの最大の違いは測距精度です。
UWBはcm級の高精度な測距が可能なのに対し、Bluetoothの測距精度はm級です。
Bluetooth方式の位置推定は電波強度(RSSI)を測定する方式が一般的です。
Bluetooth 5.1で方向検知機能(AoA/AoD)がオプションとして追加され、位相差を利用したより高精度な測距が可能となりました。しかし周波数帯域の制約など実用上の課題が多く、精度を出すのは困難です。
NFCとUWBの比較
NFC(もしくはRFID)とUWBの最大の違いは通信距離です。
SuicaでもおなじみのNFC(近距離無線通信)の通信距離は数cm程度で、ICカードやスマホをNFCリーダーにかざす動作が必要です。
UWBの通信距離は10m程度あり、しかもcm級精度で測距できます。
例えばモバイルSuicaにUWBを組み合わせれば、スマホをポケットやカバンに入れたまま、改札を通ることが可能になります。
近接センサーとUWBの比較
対象物との距離を測る手段として各種の近接センサーがあります。
超音波センサー、焦電センサー、ToFセンサー、ミリ波レーダーなど様々な方式のセンサーがあります。
近接センサーとUWBの最大の違いは対象物の識別能力です。
「ママがきたセンサー」という昔から定番の電子工作キットがありますが、実際のところ、近接センサーはママが来てもパパが来ても同じように反応します。
UWBなら測距とデータ伝送を両立できるため、誰が来たのかを判別できます。
測距とセキュリティの関係
UWBの特徴である高精度測距は、モバイル決済やスマートキーのセキュリティ強化につながる重要技術です。
たとえばスマートロックの場合、セキュアなハンズフリー解除機能を実現できます。
NFCやBluetoothのように測距ができない通信方式の場合、なりすまし(リレーアタック)の脆弱性が存在します。
UWBの測距情報を使えば、スマートキーが本当に近くにあるのか、あるいは第三者が中継した不正な電波なのかを識別できます。
UWBの定義
広義のUWB
UWB(超広帯域無線)とは、その名の通り、極めて広い周波数帯域を使う通信方式です。
「周波数帯域が極めて広い信号」とは「時間的にごく短いパルス状の電波」のことです。
一見すると、周波数帯域が広い=悪いことのように思われます。
しかし近距離の無線通信に限定すれば、周波数帯域が広い信号を使うことで、既存の無線通信(狭帯域無線通信)に干渉しない微弱な電波で通信できるメリットがあります。
米国のFCC(連邦通信委員会)は「帯域幅500MHz以上もしくは比帯域幅20%以上の無線通信」をUWBとして定義し、周波数範囲として「3.1GHz~10.6GHz」を開放しています。
UWB方式の用途としてデータ通信だけでなく、レーダーも想定されています。
これが広い意味でのUWBです。
狭義のUWB
2019年のiPhone搭載以降、注目度が高まっているUWBが「IEEE 802.15.4z」です。
この記事で紹介したUWBの特徴も「IEEE 802.15.4z」を前提としています。
標準規格
IEEE 802.15.3a(2003年〜2006年)
2002年に米FCCがUWBの民生利用を開放したことを受け、UWB方式の高速データ伝送の標準規格として「IEEE 802.15.3a」の検討が2003年に始まりました。
しかしチップメーカーの派閥争いで膠着状態になり、2006年に標準化が取り下げられました。
MB-OFDM方式とDS-UWB方式が標準化の最終候補でした。
MB-OFDM方式はIntelやWiMedia Allianceが主導し、「ワイヤレスUSB(Certified Wireless USB)」として実用化されました。
ワイヤレスUSBの採用例として、既存のUSB機器を無線化できるワイヤレスUSBハブなどが発売されました。
しかしマウスやキーボードを無線化する手段はBluetoothが主流となり、ワイヤレスUSB規格は自然消滅しました。
DS-UWB方式はFreescaleが推進し、「ワイヤレスUSB」に対抗した規格「Cable-Free USB」として登場しました。
BelkinがCable-Free USB方式のUSBハブを発売しましたが、その後の製品展開は広がらず、ワイヤレスUSB以上に短命な結果に終わりました。
壁越しで高速通信できる夢の技術として注目されたUWBでしたが、Intel陣営とFreescale陣営の対立で標準化は失敗しました。
各社がそれぞれの方式で製品を出し、デファクトスタンダードを市場にゆだねる形になりました。
しかし、どちらの方式もユーザーからは「値段が高いわりに接続が不安定」とネガティブな評価で終わりました。
IEEE 802.15.3a時代のUWB関連トピック(Bluetoothとの統合、ワイヤレスUSB等)は「なかったこと」になり、UWBというキーワード自体がいったん、姿を消すことになります。
IEEE 802.15.4z(2019年以降)
2019年のiPhone11搭載以降、注目度が急上昇しているUWBの標準規格が「IEEE 802.15.4z」です。
「IEEE 802.15.4z」は2020年に発行されたUWBの最新規格です。
802.15.3が高速データ伝送なのに対し、802.15.4は低速データ伝送の標準規格です。
「IEEE 802.15.4z」のベースとなった古い規格が「IEEE 802.15.4a」です。
「IEEE 802.15.4a」はUWB方式の低速データ伝送規格として2004年に検討が始まり、2007年に標準化されました。(802.15.4a-2007)
「IEEE 802.15.4a」は2011年に「IEEE 802.15.4-2011」に統合されました。
2015年発行の「IEEE 802.15.4-2015」ではHRP方式とLRP方式が規定されました。
802.15.4a(802.15.4-2015)にセキュリティ拡張機能を追加した規格が「IEEE 802.15.4z」です。
IEEE 802.15.4zは直接拡散変調を用いたインパルスラジオ方式(IR-UWB)です。
参考
UWB とは何だったのか|サイレックス・テクノロジー株式会社
ウルトラワイドバンド技術で加速する低速無線PAN
ついに開花、UWB | 日経クロステック
An Overview of the IEEE 802.15.4z Standard its Comparison and to the Existing UWB Standards | IEEE Conference Publication