歴代のRaspberry Piシリーズで使われてきた主要チップの情報をまとめました。

Raspberry Pi 3B+

SoC: BCM2837B0

Raspberry Pi 3B+のSoCはBroadcom BCM2837B0です。
40nmプロセスで製造されたチップです。

前モデルである3Bに搭載されたBCM2837と基本的に同じチップですが、チップのパッケージがモールド樹脂から金属製ヒートスプレッダーに変更され、放熱性が強化されました。
また、チップ内部の配線がワイヤーボンディングからフリップチップに変更され、動作クロックが1.2GHzから1.4GHzに高速化しました。

USB: LAN7515

Raspberry Pi 3B+のUSBコントローラーはMicrochip LAN7517です。
LAN7517はUSBコントローラー、USBハブ、Ethernetコントローラーを統合したICです。

LAN7517は、前モデルである3Bに搭載されたLAN9514のアップグレード版で、Gigabit Ethernetに対応しました。
ただしLAN7517とSoC(BCM2837B0)はUSB2.0で接続されているため、通信速度は最大300Mbps(規格上480Mbps)です。
また、EthernetとUSBポートが同じバスを共有しているため、USBとEthernetを同時に使用すると速度低下が生じます。

Ethernet: LAN7515

前述の通り、Raspberry Pi 3B+のEthernetコントローラーはMicrochip LAN7517です。

WiFi/Bluetooth: CYW43455

Raspberry Pi 3B+のWiFi/BluetoothはCypress CYW43455です。
なお、Cypressは2019年にInfineonへ買収されました。

前モデルである3Bでは、WiFiにBroadcom BCM43438、BluetoothにBroadcom BCM43143が使われていました。
2016年にBroadcomはIoT向け無線通信事業をCypressに売却したので、CYW43455はBCM43438/BCM43143の後継品にあたります。

電源: MxL7704

Raspberry Pi 3B+のPMICはMaxLinear Mxl7704です。

前モデルである3Bの電源回路は、Diodes PAM2306AYPKEとRichtek RT8088AWSCが主要な電源ICとして使われていました。
3B+では、5系統の出力を統合したMxl7704に集約されました。

その他

無線LANアンテナがチップアンテナからPCBアンテナに変わりました。
PCBアンテナはProAntからライセンスされた技術が使われています。

Raspberry Pi 4B

SoC: BCM2711

Raspberry Pi 4BのSoCはBroadcom BCM2711です。
‌28nmプロセスで製造されたチップです。

3B+に搭載されたBCM2837B0から性能が飛躍的に進化しました。

USB: VL805

Raspberry Pi 4BのUSBコントローラーはVIA Labs VL805です。
VL805はUSB3.0に対応したUSBコントローラー(xHCI)、4ポート対応のUSBハブを統合したICです。

VL805とSoC(BCM2711)はPCIe 2.0 x1で接続されています。
これにより、従来の3B+でボトルネックとなっていたUSB2.0のバス共有問題が解消しました。

Ethernet: BCM54213

Raspberry Pi 4BのEthernetコントローラーはBroadcom BCM54213です。

BCM54213とSoC(BCM2711)はRGMIIで接続されています。
これにより、従来の3B+でボトルネックとなっていたUSBポートとのバス共有問題が解消したうえ、スループットも飛躍的に向上しました。(最大転送速度1000Mbps)

WiFi/Bluetooth: CYW43455

Raspberry Pi 4BのWiFi/Bluetoothは、3B+と同じくCypress CYW43455です。

電源: MxL7704

Raspberry Pi 4BのPMICは、3B+と同じくMaxLinear Mxl7704です。

その他

Raspberry Pi 4Bは電源コネクタがUSB Type-Cに変更されました。
発売初期のモデルは、eMarkerチップを内蔵したUSB PD(Power Delivery)規格の電源アダプターでは起動できない不具合がありました。
回路修正が行われ、修正版モデルではUSB PD規格の電源アダプターでも起動できるようになりました。

Raspberry Pi 5B

SoC: BCM2712

Raspberry Pi 5BのSoCはBroadcom BCM2712です。
‌16nmプロセスで製造されたチップです。

4Bに搭載されたBCM2711に比べてCPU性能が2倍以上高速化しました。

USB: RP1

Raspberry Pi 5BのUSBコントローラーはRP1です。
RP1はRaspberry Piが独自開発したI/Oコントローラーです。
TSMC 低電圧版40nm(40LP)で製造されたチップです。

RP1は、USB3.0に対応したUSBコントローラー(xHCI)を2つ搭載しています。4つのUSBポートで1つのxHCIコントローラを共有していたVL805に比べて、RP1はUSBデバイスを複数つないだときの性能や安定性が向上しました。

RP1とSoC(BCM2712)はPCIe 2.0 x4で接続されています。

ところで、RP1はとても興味深いコンセプトのチップです。
Raspberry Piによると、高性能なCPUとペリフェラルを集積したSoCはプロセス微細化が困難になっていくため、GPIO、USB、Ethernet、カメラとビデオ用MIPI等のペリフェラル機能をSoCから切り出したと説明されています。

しかし、Raspberry Pi 5BのSoC(BCM2712)は、内蔵するCPUコア「Arm Cortex-A76」がターゲットとする7nmプロセスではなく、1世代古い‌16nmプロセスで製造されています。
一方で、同じCortex-A76を内蔵したSoC「RK3588」は8nmプロセスで製造され、ROCK5Bを始めとした次世代SBCで採用が広がっています。
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SoCの技術進化が予想以上に早かったのかもしれませんが、それでもなお、RP1のコンセプトは注目に値します。
ペリフェラルの制御をRP1に集約することで、SoCへの依存度が下がります。

これまでRaspberry Piの主要チップはBroadcomに依存してきました。
Broadcomチップセットを全面採用する見返りとして、TIのBeagleBoardやASUCのTinker Boardに比べて、高性能なSBCを安価に提供できたのではないでしょうか。
しかしBroadcomの注力分野が変化するとともに、Raspberry Piシリーズの半導体供給不足など、不都合な側面も見えてきたのかもしれません。

RP1の開発は2015年から始まり、2023年発売のRaspberry Pi 5Bに初搭載されました。8年間の試行錯誤をかけ、3回の作り直し(RP1-C0, Revision C0)でようやく量産になりました。SoCに統合された機能をあえて切り離す是非について議論が長引いたのでしょうか。

ちなみにRP1の開発資産はRP2040(RP2-B2)にも活用されました。
2021年に自社開発したRP2-B2を搭載したRaspberry Pi Picoがヒット、続いてBroadcomからダイ供給を受けたRP3-A0を搭載したRaspberry Pi Zero 2 Wは供給不足、そして2023年にRaspberry Pi 5BでRP1搭載という経緯です。

参考情報

Ethernet: BCM54213 + RP1

Raspberry Pi 5BのEthernetコントローラーはBroadcom BCM54213とRP1の2チップ構成です。

BCM54213とRP1はRGMIIで接続され、RP1とSoC(BCM2712)はPCIe 2.0 x4で接続されています。

BCM54213は基板に対して斜め45度の角度で実装され、配線レイアウトの見直しにより信号品質が向上しました。

WiFi/Bluetooth: CYW43455

Raspberry Pi 5BのWiFi/Bluetoothは、3B+/4Bと同じくCypress CYW43455です。

CYW43455とSoC(BCM2712)は、3B+/4Bと同じSDIOで接続されていますが、BCM2712は、より高速なDDR50モードのSDIOに対応しました。

電源: DA9091

Raspberry Pi 5BのPMICはDialog(現Renesas) DA9091です。
DA9091は、スコットランドのエディンバラにあるDialog(現Renesas)の設計チームがRaspberry Piのために開発したPMICです。

DA9091により、RTC対応や電源ボタン制御がハードウェアレベルでサポートされました。

DA9091は8個のスイッチングレギュレーターを搭載しています。
90度位相をずらした4相分の出力を結合することで合計20Aの大電流をSoCコアに供給します。DA9091の上側に配置されたグレーのチップインダクタが4相出力部です。
DA9091のデータシートは公開されていませんが、DA9080がベースかもしれません。
インターリーブ機能、2MHzスイッチング、5A出力など多くの類似点があります。

DA9080 – Renesas
Raspberry Pi 5: We interview Eben Upton and James Adams — HackSpace magazine

その他

Raspberry Pi 5Bは推奨電源が5V5Aになりました。USB PD規格に対応していますが、5Vより高い電圧には対応していません。
なぜRaspberry Pi 5の電源は5V5Aなのか?

参考

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Introducing: Raspberry Pi 5! – Raspberry Pi