これを読めば明日からSDメモリーカード通。
目次
最大容量の秘密
SDカードは幅広い機器での互換性を重視しているため、技術的な限界値より低いスペックを規格の上限値としています。
たとえばSDHCカードの規格上の最大容量は32GBですが、じつは最大2TBまで大丈夫です。
SD(SDSC)
SD(SDSC)カードは理論上、4GBまで拡張できます。
規格上の最大容量は2GBです。
Windows98やWindows MeではFAT16ファイルシステムで扱えるボリュームサイズが最大2GBだったことを配慮したと言われています。
SDカードでは記憶容量等の情報をCSD(Card Specific Data)という128bitのレジスタに格納しています。
CSDの中でカード容量に関わるレジスタが3つあります。
・C_SIZE(Device Size):クラスターの数(1〜最大4096個、12bit)
・C_SIZE_MULT(Device Size Multiplier):クラスターあたりのブロック(セクター)数(4個〜最大512個、3bit)
・READ_BL_LEN(Max. Read Data Block Length):ブロック(セクター)のサイズ(512byteか1024byteか2048byte、4bit)
SD規格v1.00ではブロックサイズは512byte固定でした。
したがってv1.00での最大容量は
4096(クラスター数)×512(ブロック数)×512(ブロックサイズ)=1GB
です。
SD規格v1.01でブロックサイズに1024byteと2048byteも選択可能となり、最大4GBまで拡張可能になりました。ただしv1.01以降も規格上の最大容量は2GBです。
こうした経緯のため、SD規格v1.00に準拠した古いSDホストデバイスでは1GB超のSDカードは認識できないことがあります。
SD規格はマルチメディアカード(MultiMedia Card、MMC)がベースとなっており、レジスタ設定にもその名残があります。
SDHC
SDHCカードは理論上、2TBまで拡張できます。
規格上の最大容量は32GBです。
WindowsではFAT32ファイルシステムでフォーマットできるボリュームサイズが最大32GBに制限されていることを配慮したと思われす。
SDHCはSD規格v2.0で仕様が決められました。
アドレス方式が32bitバイトアドレスから32bitブロックアドレス(ブロックサイズ:512byte)に変わりました。
したがって最大容量は512byte×(2^32)=最大2TBとなります。
CSD(Card Specific Data)のレジスタ設定も変更されています。
C_SIZEというレジスタだけでカード容量が決まり、C_SIZEの割当が12bitから22bitに増えました。
カード容量はC_SIZE(22bit)×512KBで計算します。
2^22×512KB=最大2TBまで設定可能ですが、
SDHC規格で許可されたC_SIZE最大値は65375(=32GB)です。
SDHC対応機器で32GB超のSDカードを使いたい場合、SDXCカードをFAT32でフォーマットする裏技があります。
SDHC規格外ですが、実際は64GB〜128GBくらいまで認識できるホストデバイスが多いです。
参考:SDXCカードを最新から3年前までのスマホで試した – 週刊アスキー
SDXC
SDHCと同じ物理層仕様で、最大容量が2TBになった規格がSDXCです。
ファイルシステムがexFATに変更され、Windowsでも最大2TBまでフォーマットできます。
exFATは4GBを超えるファイルを分割せずに保存でき、読み書きの性能もFAT32より向上しています。
しかしexFATはマイクロソフトの特許があり、ライセンス契約が必要です。
SDXCが発表された2009年頃は、マイクロソフトのライセンス問題がSDXC普及を妨げるという意見もありました。
しかし4k動画撮影など大容量メモリーカードのニーズが強まったこともあり、2012年頃からスマートフォンやデジカメのSDXC対応が進みました。
最新のスマートフォンやデジカメ以外で使う場合、SDXCは注意が必要です。
exFATのライセンス問題があるため、SDHCまでしか対応していない機器が多くあります。
SDカードでデータをやり取りする場合は、SDHCを選んだほうが無難です。
一部のSDXC非対応スマホではSDXCカードを読み込めないだけでなく、データを壊してしまう不具合もありました。
参考:microSDXCカードご利用時のご注意について | NTTドコモ
SDUC
SDUCは再度、物理層仕様が改版され、最大容量が128TBまで拡張された規格です。
SDUCは2018年6月にSD規格v7.0で仕様が決められました。
アドレス方式が38bitブロックアドレス(ブロックサイズ:512byte)に変わりました。
したがって最大容量は512byte×(2^38)=最大128TBとなります。
CSD(Card Specific Data)のレジスタ設定も変更されています。
C_SIZEの割当が28bitに増えました。
カード容量はC_SIZE(28bit)×512KBで計算します。
2^28×512KB=最大128TBまで設定可能です。
高密度実装
SDカード黎明期の2000〜2010年、SDカードの大容量化を実現するためにICチップの高密度実装技術の開発が進みました。
COB(Chip On Board)
プリント基板にベアチップをのせて、ボンディングワイヤーでチップと基板を接続する実装技術です。
ベアチップとワイヤーを保護するため、プリント基板の上に樹脂封止します。
フリップチップ
ベアチップ上に電極をつくり、チップと基板を直接、接続する実装技術です。
ボンディングワイヤーがないのでCOB実装より更に省スペース化が可能です。
参考:回路基板の省スペース革命を推進するフリップチップ実装機
MCP(Multi Chip Package)
複数のベアチップを1つのパッケージに集積する実装技術です。
チップを横に並べるタイプもMCPと呼ばれますが、チップ積層方式(スタック式)を指すことが一般的です。
TSV
Through-Silicon Viaの略で、シリコン貫通ビアと呼ばれます。
MCPがベアチップを階段状に積み重ねるのに対し、TSVはベアチップを垂直に積層できます。ベアチップ内部のビアでチップ同士を接続するので、ワイヤーボンディングが不要です。
MCPよりも大容量(多段積層)、高速化(寄生容量の削減)、低消費電力化(寄生抵抗の削減)が可能です。
参考:東芝レビュー TSV技術を用いた世界初の16段積層 NAND型フラッシュメモリパッケージ
SDカードでの応用例
2002年1月 東芝レビュー
コントローラICチップを厚み175μmまで削り、ベアチップ実装。
別のICではフリップチップ実装。
2003年11月 松下電器、その2
512MbitのNANDチップをフリップチップ実装。
両面実装により薄型基板と薄型ICの反りを抑えた。
合計4個のNANDチップが実装された基板を2段積層。
2002年11月時点で世界最高容量となる512MBのSDカードを実現。
2004年1月 SanDisk、1GB SDメモリーカードを世界初出荷
シャープの3次元System-in-Package(3D-SiP)を採用。
2008年9月 東芝が16GB マイクロSDカードを試作展示
8GbitのNANDチップを16個とコントローラ1個の計17個のチップを積層した。
NANDチップは厚さ18μm。
2009年 パナソニック技報 Vol.55
16GbitのNANDチップを8個積層したLGAパッケージを2個使い、32GBのSDカードを実現。
コントローラICは基板裏面にベアチップ実装。
ベアチップの上をステンレス板でカバーし、応力に強くした。
応力に強い堅牢な構造のため、パナソニックのSDカードはカード裏面にメモ書きできるエリアがある。
2011年9月 東芝レビュー
マイクロSDカードはNANDチップ8個、コントローラ1個の合計9チップを積層。
最も薄いチップは厚み28μm。
極薄ウエハを加工するための先ダイシング技術、高密度実装のため高精度ワイヤボンディング技術や狭ギャップ樹脂充填技術を開発。
さらに応力シミュレーションを活用し、衝撃や温度変化に強いパッケージを短期間で設計。
壊れたSDカードのデータ復旧
データ復旧の最終手段がフラッシュメモリーのデータを直接読み出す方法です。
マイクロSDカードやUSBメモリーの場合、端子がついている基板側を削ると電極にアクセスできます。
とても繊細な作業なので専門業者にお願いすることをおすすめします。
参考:
モノリス(1チップタイプ)USBメモリーデータ復旧
MicroSDデータ復旧 物理破損を修理業者に出してみた。
SDカードの相性問題
デジカメやPCだと読み込めるのに、特定のホストデバイス(カードリーダーやスマホ)だと一部のSDカードを読み込めないという相性問題が発生することがあります。
いちばん多い原因はSDXCやSHDCといった容量規格です。
古い容量規格のホストデバイスでは新しい容量規格のSDカードは認識できません。
そして意外と知られていない、もうひとつの原因が「ホストデバイスの電源供給能力」です。
SD規格ではホストデバイスは標準電圧3.3V(最低電圧2.7V)で200mA以上の電源供給能力が必要とされています。
しかし実際に流通している製品を試験してみると、ホストデバイスに負荷がかかっている状態だと電源の余裕がなくなり、SDカードが200mAをひっぱると供給電圧が2.7Vを下回ってしまう製品が多々見つかっています。
SD規格では「Host Power Supply Test」という試験方法が推奨されていますので、大手メーカーのデジカメやPCであれば大丈夫でしょう。
問題になりやすいのはSD規格に準拠していないガジェット系です。
SD非対応の典型的な例はmicroSDカードスロットを「TF」と表記している機器です。
電源供給能力に起因する相性問題の対策は困難です。
いちばん手っ取り早いのは、消費電流の少ないSDカードに変えることです。
発売時期が新しくて容量が少ないSDカードほど消費電流が少ないはずです。
最新の微細プロセスのチップで、積層枚数が少ないほど消費電力が減るからです。
もう1つは苦肉の策ですが、SDカードを読み書きしているとき、ホストデバイスの他の動作を抑えることも効果があります。
ホストデバイスの電源供給能力の余裕が増えるからです。
SDカードはDVDの弟
SDカードのロゴの「D」という字は光ディスクを模したデザインです。
もともと光ディクス向けにデザインされたロゴだったからです。
じつはSDカードはDVDの弟のような存在です。
DVDはパナソニック・東芝陣営のSD(Super Density Disk)と、ソニー・フィリップス陣営のMMCD(MultiMedia Compact Disk)という2つの規格が統合した出来た規格です。
1995年にDVD規格が発表され、Super Density Disk用に東芝が作ったロゴマークはお蔵入りとなりました。
時は流れて1999年。
ソニーのメモリースティックに対抗するメモリーカードの規格を立ち上げるため、パナソニックは東芝とサンディスクに声をかけ、新しい規格の開発を進めていました。
この規格が「SDメモリーカード」と命名され、東芝が作ったロゴマークが転用されることになりました。
光ディスク向けロゴマークを半導体メモリーカードに転用する奇想天外なアイデアですが、SDという名前はパナソニック、東芝、サンディスクの3社それぞれに都合が良い妙案でした。
SDはSecure Digitalの略で、パナソニックは自社の著作権保護技術をアピールできます。東芝はお蔵入りしていたロゴマークを有効活用できます。サンディスクも社名のイニシャルに通じます。
しかもロゴマークは世界中で商標登録が完了しており、短期間での規格化にも好都合でした。
SDメモリーカードの立ち上げに携わったパナソニックと東芝の人物は、Super Density Disk協業でお互いに面識があった上、MP3の著作権問題でSDMI(Secure Digital Music Initiative)というキーワードが業界内で話題となっていました。
こうしためぐり合わせがあり、パナソニック・東芝・サンディスクの3社キーパーソンが初めて会談した初日に「SDメモリーカード」の商標が内定したと言われています。
東芝が試作したSD-ROMにSuper Density Diskのロゴが確認できます。
東芝:プレスリリース (1995.11.7)
SDとMMCDが統合してDVDになった話について。
相変化記録技術/アモルファスと結晶のはざまで | Panasonic
NANDを発明したのは東芝
NANDフラッシュメモリーを発明したのは東芝の舛岡富士雄氏です。
NANDフラッシュメモリー事業は東芝の利益の柱でしたが、経営不振のあおりで投資ファンドに売却されました。
2017年に東芝メモリとして分社化され、2019年にキオクシアへ社名変更しました。
参考:
フラッシュメモリは東芝が発明したと胸を張って言えるか? – セミコンポータル
NHKドキュメンタリー – ブレイブ 勇敢なる者「硬骨エンジニア」
SDカードの誕生日は1999年8月25日
1999年8月25日
東芝、サンディスク、松下電器産業(現:パナソニック)が「SDカードメモリーカード」の共同開発を発表。
東芝:プレスリリース (1999.8.25)
2000年1月
SDカードの規格策定する業界団体「SDアソシエーション」を設立。
東芝:プレスリリース (2000.1.7)
2000年5月
SDカードは8月か9月に64MBまでの製品を発売する――サンディスクがプレスミーティングを開催
当時はソニーのメモリースティックが先行していました。
勝敗を決めたキラーアプリは携帯電話でした。
2001年1月
松下電器産業、8MBで3300円のSDメモリーカード(RP-SD0008)を発売
メモリーカード?メモリカード?
SDカードの正式名称は「SDメモリーカード」なのか、「SDメモリカード」なのか。
正解はどちらでもOK。
ITmediaが各メーカーに問い合わせた結果です。
SDアソシエーション「英語表記『SD Memory Card』が正式名。日本語表記はメモリーでもメモリでも良い」
東芝「すべてメモリに統一」
パナソニック「SDメモリーカード」
サンディスク「メモリー派」
参考:どっちが正しい? “SDメモリカード/SDメモリーカード”論争に終止符を打つ – ITmedia NEWS
それでは日本語として正しいのはどちらでしょうか?
文化庁やNHKの指針によれば、長音がつけた「メモリー」という表記が正しいようです。
長音は,原則として長音符号「ー」を用いて書く。
文化庁 | 国語施策・日本語教育 | 国語施策情報 | 内閣告示・内閣訓令 | 外来語の表記 | 留意事項その2(細則的な事項)英語などの語末の -er,-or,-ar,-y は原則として長音符号をつけて表記
放送用語委員会 ●外来語の発音・表記について~用語の決定~
賢い買い方
特価品のSDカードは安物買いの銭失いになりがちです。
中身にマイクロSDが入っていることもあります。
SDカードのカタログスペックもあてになりません。
信頼できるブランドで選ぶのが無難です。
性能と価格のバランスを考えるとサンディスクや東芝、サムスンが鉄板です。
そして安く買う裏技が「並行輸入品」です。
ただしAmazonの並行輸入品は偽物のリスクがあるので、くれぐれも信頼できる国内セラーを選んでください。
SDカードは最上位ブランドの並行輸入品を選ぶべき3つの理由
あとがき
SDカードについて知りたいことがあれば、お気軽にコメントください。